こんにちは.マツロウです.
この記事では,瀬古利彦さんの著書『すべてのマラソンランナーに伝えたいこと』をご紹介します.
瀬古さんと言えば,1970年代から1980年代にかけての,日本男子長距離走のトップランナーです.マツロウはリアルタイムでその活躍を見たことはないですが,顔と名前は知っています.現在は陸連の理事をされているようで,時々マラソンや駅伝の解説でも見かけます.
本書は瀬古さんの現役時代の話や当時のマラソンに対する向き合い方,これからの日本マラソン界への憂いなどが綴られています.具体的な技術論の本ではありません.どちらかと言えば精神論,マラソンに対する心構えや向き合い方に主眼をおいています.
現在のエリートランナーに対しては辛口な意見も述べていますが,ご自身の感覚が時代に合わなくなっていることは書籍の中でも触れられていて不快には感じませんでした.
市民ランナーに対してはそこまで辛辣な意見は無いです.というよりも,市民ランナーに対してはあまり明確にメッセージを発していないように見えますので,読み手がいいとこ取りをすればいいと思います.
全体を通して主たるメッセージに矛盾がなく,思ったまま・感じたままのこと本心で書いているであろうことが伝わります.ただし,内容や表現が時代から逸脱しないように工夫された感じは見て取れます.(笑)
当時のマラソン界とトップランナーの心の内を少しだけ覗きみることができるという点で,読み物として楽しめます.
いくつか印象的な部分をご紹介します.
マラソンは練習と生活を律して積み重ねていけば、必ず走れるようになる。これはトップランナーも市民ランナーも同じことだと思う。
すべてのランナーに伝えたいこと p.019
根性を語る前に、必要なことを自分で決め、それを守り通す。
それが強いマラソン選手の本質である。
うーん,厳しい.(笑) その通りのことでマラソンに限らずド正論なんですけど,ここまではっきりと言われてしまうと辛いですね.(笑)
ただし,瀬古さんは現役時代からお酒は息抜きとしてやめなかったと告白されています.必ずしも修行僧みたいになれということではないのだと解釈します.やることとやらないことを決めたら,それを守ることだけは続けなさいという意味だと理解しました.
さて,次はペース感覚に関してのご指摘.
(前略)…感覚のない選手は腕時計に目を落とすことが多い。これはランナーとしてあまり褒められた行為ではなくなく、むしろカッコ悪い。
すべてのランナーに伝えたいこと p.036
練習になると時計を外す。そんなランナーがかっこいいと思う。
なるほど.トップランナーから市民ランナーまでデータドリブン全盛の現マラソン界にあってのこの主張.一考に値するものと思います.
瀬古さんの趣意とは違うかもしれませんが,ペースや心拍数などの数値による強度ではなくキツさなどの”体感強度”によるトレーニングを提唱する向きもありますよね.特に市民ランナーはそれでいいと.
さて,次.トップランナーにおける日本と世界の差をうけての言葉.
かつては素質2割、努力が8割と答えていた。
すべてのランナーに伝えたいこと p.103-104
…(中略)…
今は10割の素質を持った選手が、10割の努力をしてようやく世界に挑戦できるレベルに到達する時代だ。
外から見ていても日本マラソン界の現状は厳しいと感じますが,強化に携わっている中でも危機感はあるんだなと.しかも,”世界で勝てる”ではなくて”世界に挑戦できる”ですからね.10-10でやっても,勝てるとは限らないと.そこまで意識して言葉を選んだかはわかりませんが….
ただ一方で,日本人が小柄だから不利というわけではないとも仰っています.確かに外国人選手でも,トップランナーで大柄な選手は少ない気がします.日本人ランナーと並んでもそこまで大きく見えない選手が多い.普通体型の多い市民ランナーでもポテンシャルは十分にあると.
次は燃え尽き症候群に関しての記述.
(前略)…1日で選手生命が終わってしまうことだってある。
すべてのランナーに伝えたいこと p.118
自分の体を知ること。そして自分の能力の限界を知ること。これはレベルを問わず、すべてのランナーに求められる能力だ.何でもがむしゃらに頑張ればいいわけではない。
この言葉こそ市民ランナーは肝に銘じるべきかもしれません.燃え尽き症候群とは違いますが,普段何気なく走っているコースで事故にあい,二度と走れなくなる可能性だってゼロではない.体調と安全管理をして,楽しく続けられてこそのランニング人生ですよね.
全体的には精神論なのですが,割と冷静だったり,緩かったりするのが本書の特徴. むしろ,瀬古さんの特徴かな?(笑) でも,だからこそ若干親近感も湧いてきます.それでもマラソン会の雲上人であることは間違いない.
さて,最後.実は本書の1章1節からの引用ですが,あえて最後に持ってきました.
それでもマラソンの魅力はまだわからない。わからないことが魅力かもしれないし、その魅力は百人いれば百様なのだとも思う。
すべてのランナーに伝えたいこと p.016
15戦10勝のトップランナーにしてこの言葉.やはりマラソンは奥が深い.
でも,職業ランナーだったからこそ,その魅力に気がつくのが難しい側面もある気がします.市民ランナーにとっては魅力を分かる必要がない.魅入られたらそれでよし.それ以上の理由はいらない.マツロウはそんな気がします.
本書は2012年発行ですので,内容的に若干の古さを感じる面もありますが,メッセージを項目立てにして解説のような形で本文を記す構成,文体の読みやすさ,難しい専門用語もあまり出ないなど,とっつきやすい本だと思います.
ハウツー本としてではなく,時代背景も含めた読み物として読めばしっかり楽しめると思います.
皆様も見かけたら,手にとってみてはいかがでしょうか.
この記事はここまでです.
お読みいただきありがとうございました.また,次の記事でお目にかかりましょう.
皆様の充実したランニングライフを願って.
|マツロウ
